Research.「多様な線虫の生き様を理解し、寄生線虫病の防除に役立てること」これが私たちが掲げる研究の目標です。フィールドでは生態調査や観察を行い、実験室ではゲノミクスや分子生物学的技術を駆使し、線虫という不思議な生き物を生態・生理・分子レベルでまるごと理解しようと試みる、それが私たちの研究のスタイル”Organismal biology"です。
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01 our research
植物寄生性線虫 Plant parasitic nematodes
線虫は非常に多様性の高い生物ですが、そのうちの約10%は植物に寄生する線虫種です。一部の植物寄生性線虫種は様々な農作物に甚大な被害を与え、また樹木に感染し生態系を大きく変えてしまうような種もいます。私たちのグループでは、これら農作物や樹木を枯らしてしまう線虫(現在は主にマツノザイセンチュウおよびネコブセンチュウ)がどのように植物に寄生するのか、病気を引き起こすのかという疑問を解決すべく様々な角度から研究を進めています。病気の仕組みが明らかになることで線虫病の防除につながることが期待されます。また、分子レベルでの病気のメカニズムを明らかにするために、遺伝子組み換え体やノックアウト線虫を作出するための技術開発にも取り組んでいます。
02 our research |
線虫の性決定・配偶行動・フェロモン Sex determination, Mate choice, Pheromone
多くの生き物にはオスとメスが存在し、どちらの性になるかは遺伝的(性染色体)に決まります。モデル生物の1つとして有名な非寄生性の線虫C. elegans(シー・エレガンス)では性が決まる仕組みが詳細に調べられており、やはり性染色体が性の決定に重要な役割を果たしていることがわかっています。しかしながら、C. elegansとは系統的に離れた種(特に植物寄生性線虫グループ)の中には性染色体を持たず、全く異なる仕組みで性が決定するものが多数いることがわかってきました。私たちのグループでは、寄生線虫種を中心にその性決定様式の解明に取り組んでおります。また、様々な線虫のフェロモン物質を同定したり、配偶者を選択する仕組みを明らかにすることにも取り組んでおり、これらの研究から得られた成果は生物進化に関する基礎的知見をもたらすと共に、全く新しく特異性の高い寄生線虫防除手法の開発につながることが期待されます。
03 our research |
線虫環境適応性と表現型可塑性 Environmental adaptation, Phenotypic plasticity
線虫は地球上で最も繁栄した動物群の1つです。私たち人間の生活圏のあらゆる場所に線虫は生息していますが、それ以外にも、いわゆる極限環境として知られる、砂漠・南極・深海などからも沢山の線虫が見つかっています。単純な体の構造を持つ線虫が如何にしてこれほどの高い環境適応力を持っているのか、私たちの基本的な興味はこの疑問を明らかにすることにあります。また、極限環境の線虫だけでなく一般に多くの線虫が環境の変化に柔軟に対応する能力を持っています(表現型可塑性)。私たちは、線虫が環境の悪化を察知して「耐久型」という特殊な幼虫になる仕組みや、環境に応じて性を変える(環境性決定)仕組みを研究することで、複雑な環境に対する生物の適応メカニズムを統合的・包括的に理解したいと考えています。
04 our research
菌食・植物寄生性線虫遺伝学モデルの作出と応用 B. okinawaensis as a model for plant-parasitic nematodes
線虫の中にはC. elegansというモデル生物として非常に有名な種がいます。C. elegansはこれまで生命科学における数々の大発見に貢献してきましたが、植物寄生性線虫研究において直接的に役に立った例はあまり多くありません。それは、非寄生性のC. elegansと多くの植物寄生性線虫が系統的に大きく異なること、そして病気の解明や農薬の開発において重要になる植物寄生性線虫に固有の仕組みをC. elegansは持たないことが理由です。私たちは、「C. elegansのように扱える植物寄生性線虫モデル」系を作ることを目指して研究を行ってきました。これまで、Bursaphelenchus okinawaensisというマツノザイセンチュウの近縁種を用いて、遺伝学解析を行う基盤を整備し、この種において様々な変異体の取得と原因遺伝子の同定ができるようになっています(Shinya et al., 2014)。現在はこの新しいモデル系を用いて、菌食性・植物寄生性線虫に固有の仕組み(例えば、特殊な性決定機構や線虫が昆虫に乗って移動する仕組みなど)を支える分子メカニズムを明らかにすることを目指し、様々な研究を行なっています。また、この線虫の野生での生態を解明し、昆虫との生物間相互作用研究にも利用していくことを目指しています。
05 our research |
捕食性線虫の生存戦略と被食回避戦略 Survival strategies of predatory nematodes
線虫の食性には多様性があり、なかには線虫を捕食する肉食の種(捕食性線虫種)が存在します。彼らは、鋭い牙や針などの獲物を狩るハンターとして必要な形態を持っているだけでなく、「仲間を認識する能力」、「飢餓に耐える能力」、「口の形を変化させる能力」といった能力も同時に獲得しています。私たちは、このような捕食性線虫に特徴的な能力が、どういった仕組みで成り立っているのかについて興味を持っています。実験室内で簡単に培養でき、行動観察や分子生物学的アプローチが容易な捕食性線虫においてこの問いに取り組むことで、捕食性線虫種の生存戦略や被食回避戦略を分子レベルで明らかにしていきたいと考えています。
06 our research
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線虫感染性微生物の探索と生活史解明 Interactions between nematodes and microbes
線虫は様々な微生物と相互関係を持っています。例えば、線虫に感染する細菌や真菌は線虫を殺すことができるため古くから研究されてきました。しかし、線虫に感染するものの目に見える病徴を示さない微生物も数多く存在します。私たちは、特に線虫に感染する真菌・微胞子虫・ウイルスにフォーカスし、それら微生物の生活史を明らかにするとともに、宿主の生殖操作や行動操作など生物間相互作用について解明していくことを目指しています。